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Paris way essay collection


インバウンドの憂鬱


外国人の訪日旅行客(※最近は、インバウンドという言い方が多い)が、ここ数年の間に急激に増え始め、大喜びしている人たちが いる。もちろん、その人たちには様々な思惑があって、その目論見通りになったが故の歓喜の有様なのだが、これをざっくり言うと、旅行客が落 とすお金で売り上げが伸び、それに伴い税収も増え、国庫が潤い、色んな施策で国民に還元されるという流れであるが、そもそも、この流れの 中で直接的な利益感が乏しい大勢の国民にとっての関心は、旅行客が増えることでのメリットよりも、増えたことによる日常生活のデメリット に向かいつつある。

テレビでもよく報道されているが、外国人に特に人気のある京都市には、それこそ、芋の子を洗うが如く沢山の外国人旅行客が訪れているため、 市中のいたるところで交通が渋滞し、歩きながらの飲食は当たり前、所かまわずゴミを捨てたり煙草を喫ったり、あるいは、観光場所ではない一般住宅の 敷地に無断で侵入したり、舞妓や芸妓を見かけると、カメラやスマホを持って追い掛け回し、中には彼女たちに触れようとする不届きな者まで出る有様ら しい。ここまで傍若無人に振舞うのは、旅行客の個人的な資質によることかも知れないが、余りにもひど過ぎるため、最近はそれらを規制するような施策 を取り始めたと耳にした。

その昔、日本では「旅の恥はかき捨て」などと独善的な考えがのさばり、日本人旅行者の様々な行動が外国で顰蹙を買ったことがあった。さすがに最近 は、そんな日本人旅行者の噂を耳にすることがなくなったし、今ではむしろ、逆に日本人は民度が高い国民との評価を得られるようになった。もちろん、た またま見掛けた一人の旅行客の行為で、その旅行客の国の全ての人がそうであるかのように決めつけるのは異常なものの捉え方だが、訪問される側の住 民にすれば、日常の変わらぬ生活が第一であり、そこを理解し旅行してくれるなら、歓迎も歓待もやぶさかではないことは、どの国であっても同じと思う。


普通に考えれば、他国に旅行しょうとするなら、それなりに下調べをしょうとするだろう。最近はどんなガイドブックが出版されているか知らないが、 単に人気の観光地や食べ物や土産物などの興味を煽るだけでなく、訪問国のルールやマナーや生活慣習も理解出来るものとして貰いたい。特に訪 問国の言語が全くダメで観光しょうとするなら、トラブルが発生する率も高くなる。簡単な日常会話帳ぐらいは準備しておけば、いざというとき身の安全 さえも有利な方向へ向けることになる。

日本には、「おもてなし」という文化があり、それを売りにしているのだが、これはあくまでサービス業、観光業の延長であり、全国民がこぞってというわけでは ない。今、国も自治体も観光客の誘致に力をいれているのだが、行政は住民のために行うものであり、仮に財政基盤の強化が目的であったとしても、行 政が率先して観光業にのめりこみ、住民に我慢を強いる形は異常であり、折角ここまで築いてきた日本の文化価値を自らが下げまくっているようなもので ある。

過剰な接待や応対がなければ旅行客が来てくれないと、旅行客にへりくだるようなやり方はすぐに飽きられてしまう。至れり尽くせりが日本文化の神髄だ と未だに思っている経営者は沢山いる。だがそれは、単に欲と欲とのせめぎあいに他ならない。欲のあるところには香りが立たず、腐敗臭が漂う。