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Paris way essay collection


可愛いホステスたち


今ではすっかり御無沙汰となった金沢のネオン街。この齢になり、その街の中に入って行く元気も、通り過ぎる勇気も無くしてしまったが、未だに記憶の片隅にあるのは、その当時、私の相手をしてくれた可愛いホステス達の笑顔と頑張る姿である。もう三十年も昔のことであるから、彼女達が未だ現役であるかどうか分からないが、たとえどんな人生を歩んでいようと、幸せであって欲しいと願っている。

スタンドバーに勤めるA子は二十歳の女の子である。高校卒業と同時にこの仕事に就いた。A子は決して美人ではない。どこにでもいる普通の女の子だ。A子がこの店で人気があるのは、その会話から分かる素直さだ。「へぇ~、知らなかったわ。ねぇ、どうして?教えて」。これが基本パターンである。この言葉に客は弱い。本当に知らないの?と疑問を覚えながらも客は話始める。つまり、客の優越感をくすぐってやる方法だ。A子は更に続ける。「あ、そうなんだ。私、勉強になったわ。ありがとう」という科白も必ず添える。A子の母も四歳上の姉もホステスをしているという。多分、ホステスとはこういうものだということをA子に教えたのかも知れないし、A子自身が接客をしていく上で学びとったからかもしれない。

クラブ勤めのB子は二十五歳。会社勤めからの転職組である。二十人くらいいるホステスの中では、ひと際目立つ容姿をしていた。B子がホステスに転職した理由は、六年後にB子がこの仕事を辞めてから分かったことだが、親が作った借金の返済を助けるためだったらしい。もちろん、たとえそんな理由が分かったとしても、私は並みのサラリーマンで、手助け出来るわけではなかった。
思えば、その間、B子と客との浮いた噂を聞いたことが無かったし、酔っ払って乱れたところを目にしたことは一度もなかった。容姿のせいもあったかも知れないが、いつも、凛とした姿勢で接客していたことが思い出される。

スナックのC子は二十三歳。二歳になる子持ちの今でいうバツイチさんである。勤務時間は午後八時から十二時まで、昼間もスーパーでパートをしている頑張屋だ。ご主人は子供が産まれてすぐに事故で亡くなったという。深くは知らないが、C子は実家に頼らず子供を育てるという強い意志を持っていた。
それでか、客に何か嫌なことを言われても、じっと我慢しているのが、傍から見ても分かった。「泣きたいときもあるだろう?」とそれとなく聞くと、「そりゃ、あるわよ」と言ったが、「でも今わたし、泣いている暇が無いの」と小さな笑みを溢した。

どんな職業でもやってみなければ分からないが、自の意志で選んだ職業は、どんなに辛いことがあっても、乗り越えて行かなければならない。A子、B子、C子いづれもホステスという職業を選択し、その目的を達成するために、その姿勢を崩さなかった芯のある可愛いホステスたちだった。