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Paris way essay collection


触れることの罪


私の枕元には、<センサーライト>という名のICセンサーを利用したライトスタンドが置いてある。このスタンドはライトカバーを支えている太さ五ミリぐらいのアーム型の金属棒に軽く触れると、点灯したり消えたりする。これは 人間が帯びている静電気を利用したもので、本を読んでいて眠くなったからといって、本で触れても消えはしない。

ある日の昼間のことである。朝、見たときには確かに点灯していなかったのだが、何故かそのスタンドが点灯していた。故障でもしたのかと思い触れて見ると、ライトはちゃんと消えたり点灯したりする。そういう事がそれから三度ほど続いた。静電気が金属アームに作用していることは間違いないのだが、メカに弱い私にとっては何かしら不気味な感じを覚えずにはいられなかった。

それから数日後の夕方に、この原因があっさりと解明してしまう。わが愛する猫のミュウが触れたからである。もちろん、ミュウはライトを点けたり消したりするのが、楽しくて触れたわけではなく、私への嫌がらせのために触れたわけでもない。何かの拍子に、ミュウの手か足がアームに触れたために点灯したのである。馬鹿らしいと思ったが、嫌がるミュウの手を持ってアームに触れ てみると点灯したから間違いない。

さて、人は誰しも触れてほしくないと思っていることがある。ところが、そんな気持ちとは裏腹に他人は遠慮なく触れてくるものである。だから、このような場合には、上手く自分の感情をコントロールできるか、何を言われても動じぬ度量があれば別だが、大抵は嫌な気分に陥ることになる。

まして、今まで 信頼していた友人や同僚などから、こういう仕打ちを受けると、時には恨みさえ覚えることがある。言った本人はちょっとした冗談の積もりだったかも知れないが、相手にとってはそれが耐えうることなのかどうかは、その表情を見れば一目瞭然であろう。心ある者ならば即座に自分の非を認めるであろうし、無神経な者は更に追い打ちをかけるかもしれない。あるいはジョークと言って逃げるかもしれない。

これがもう一歩で結婚という段階まで進んでいる男女の場合は悲惨な結果を招きかけない。愛し始めた頃はそうでもないが、愛が深まるにつれ相手のことをもっと詳しく知りたいと思うようになる。男性であれ女性であれ、結婚を考えるような年齢になって初めて恋をすることは稀で、ほとんどの男女は恋した経験を持っている。だから、過去には相当親密な男女関係があってもなんら不思議なことではないし、離婚した過去を持っている場合もあるだろう。

どうしても触れられるのが嫌というなら、隠し通せば良いのだが、恋愛関係に陥ると相手に対する信頼が深まり、この人なら言ってしまっても、きっと許してくれるに違いないと思ってしまう。その結果がまさにそうなればいいのだが、相手の心の小ささから、全く反対の方向に行ってしまい、別れざるを得なくなったということもある。

どこまで触れてもよいと定めたものなどはないし、日常の会話の中でもついつい勇み足をしてしまうのが人間であるが、触れてみる前に相手の立場になってみればよく分かることである。それでも、分からぬ時は決して触れてはならない。そうすれば、触れることの罪を犯さずに済むのではないか。

(追)

ミュウが死んで10年が経つ。その頃からホームページを始めるようになった。何度も挫折を繰り返し、今の「ダンスリップ.com」がある。