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Paris way essay collection


元官僚の甘い汁


テレビを見ていると、「元官僚」という肩書で出演されている人を時々見かけるようになった。見れば、まだ相当若い顔立ちである。まあ、何かがあったから官僚の職を辞されたとは思うが、一度は国のため国民のためにと奉職したであろうが、その気概はどこへ失せてしまったのだろうか。

官僚組織の詳しいことは知らないが、組織のトップである事務次官にまで昇り詰めるのは至難のことで、入省年度が同じで、さらに難関の東大法学部出身者がごろごろいる中で、何度も篩にかけられ、その結果、早い話が昇進争いに負けた者は、甘んじて下位に就き捲土重来を期すか、関連の組織や団体に異動し、それなりのポストを得るか、それとも職をきっぱりと辞して新しい職業への道を選択するかということになるのだが、これは何も官僚だけがそうであるわけでなく、民間会社でも同じことで、出世争いに負ければ、似たような道の歩み方をすることになる。

しかし、国家公務員であろうと地方公務員であろうと、公務員ともなれば、その給与は無論のこと、一人前の官僚に育てるための育成に懸かる費用や、その他諸々の経費は税金から支出されるわけであるから、何ら成果らしきものも残さずに辞職し、「元官僚」という肩書だけはちやっかりと利用してテレビに出てくるのは、何とも腹立たしく思える。

せめて何らかのポストに就き、それなりの成果を上げながら、惜しまれる中で職を辞さなければならなくなったというならまだしも、僅か四、五年官僚でしたというのは、昔の軍隊でいえば、士官学校出の任官したての青二才の少尉みたいなもので、軍隊のぐの字も分からず右往左往している様と似ており、そんなレベルの官僚が当然ながら省庁のことを熟知出来ているはずはないであろうに、元〇〇省の官僚と紹介され、テレビにしゃしゃり出てくるのが腹立たしいのだ。そう言えば、あの自称アイドルグループのAKB48も同様で、知名度抜群に売れていたならいざ知らず、いつもメンバーの後ろの方で全く目立たなかったのに、「元AKBの~」と語り詐欺みたいなこざかしいことをしている輩もいるわけで、そんな連中を承知で起用するテレビ局も何ともおぞましい。

最近は、その道の専門家と称する人がテレビに出てきて蘊蓄を傾けるのだが、希少的分野ならともかく、どんな分野であれ玉石混合のの飽和状態であるが、ノーベル賞クラスの専門家が出てくることは先ずはない。それに、今では。芸人やタレントでも政治や経済について口を挟んでくる時代であるから、テレビ局の思惑通りのコメントさえしてくれれば、その質を問わないのだろう。

歴史を見ると功を立て名を遺した人には志があった。有名人になりたいという気持ちを批判するつもりはないが、選んだ大学は自分の偏差値だけで、この先何をしたいというわけではなく、取り合えずは大卒という結果だけが欲しかった。就職はその時の流れによって決めればいい。そんな輩に志などあるはずがなく、いざ職探しの頃になると、あちこちの会社をふらふらと見て回り、就活してまっせとアピールすることだけは忘れない。そんな時、たまたま受けた国家公務員の上級試験を受けたら、なんと合格してしまったものだから、本当はもっと華やかなどこかの民間会社に入りたかったのだが、親や親戚が良いところに入ったと騒ぎ立てるものだから、まあ親方日の丸で官僚になるのも良いかと安楽に考え入省したものの、仕事はハードで、上下関係は厳しく、周りは皆敵視してくるわで、ひと月も経たないうちに、こんな仕事はしたくなかったのにと泣きが入り始める。

やがて、転職したいと漠然と思うようになり、たまたま目にしたテレビでは、「元官僚」と肩書で、ライトを浴びる兄ちゃんが、生き生きとしてコメントなんかしている。なんだ、元官僚だけで食っているじゃん! と安直に考える、こんなところだけは頭の回転が早い。

まあ、こんな覇気もやる気も無い人材を見抜けずに採用した省庁も悪いのだが、それに「元官僚」の肩書を簡単にくれてやるのも悪い。せめて、元官僚と名乗っても良いのは、本庁の課長クラス以上に就いた者だけが名乗れるようにし、こんな類の連中は。「元公務員」が妥当で、ましてや、元〇〇省なんぞと名乗らせてはダメだ。