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Paris way essay collection


評価社会に泳ぐ


人間社会はありとあらゆるものが評価される社会であり、人の言動や外観や日々の過ごし方は無論のこと、束の間に溢した溜め息の微かな音でさえも、評価の対象になってしまう。概して、評価はその真偽に拘わらず、 人生に影響を与えられるものであり、それを無視することは殆ど敵わず、この人間の社会の柵(しがらみ)から抜けようとするなら、自らの命を絶つか、この社会から全く隔絶された地を探し求めるしかない。とはいえ、殆どの人は常に他の人よりも高い評価を得たいという願望を持ちながら、その一方で、たとえ低評価であっても然程気にせずにいられるという鈍感さも併せ持っているから、この評価社会に順応し、自死に至らずに生きている。

評価の結果は社会での格差として表されることが多いため、格差の是正を口にする人は沢山いるが、これは評価そのものの否定であり、個々人の能力や日々の研鑽の努力を無視し、ただ人であることだけを以って一律に捉えようとする姿勢は妬みでしかない。努力した者が報いられる社会は正常な社会であり、その成果において生じる格差もまた正常な格差であり、これに異を唱えることは、義務を果たさず権利を主張するに等しく、己の怠慢を誇る笑止でしかない。

さて、現代はインターネット環境が社会の基盤となり、スマホ等の端末携帯機器も急速に普及したことから、通信販売という商業分野が著しい進歩拡大を見せている。このため、配達従事者の人手不足という問題も生じてはいるが、利用者側からすれば、商品に関して店員との会話を交わす必要もないし、同業他社における価格比較もネットで簡単に出来るし、支払いもあらかじめクレジットカードを登録しておけば、ワンクリックで清算が終了し早ければ翌日に商品を手にすることが出来る。それもこれら一連の流れは、食事をしながらでもベッドで寝転びながらでも出来るのだから、面倒臭いが先にある人にはこの利便性は堪らないだろう。

この通販サイトの特色の一つに、「商品評価(レビュー)」欄があり、購入者が商品を評価出来るシステムをとっている。一般的には、その評価値は★のような星マークの数で表し(数が多い程高い評価で、5~1の5段階で表示される)、併せてその理由をコメントとして記す形式のものが殆どであるが、そのコメントが必ずしも参考になるかというとそうではなく、たとえば、「注文した翌日に商品が届きました」とか「我が家では定番商品です」などのような?が付くコメントもよく目にする。まあ何をコメントするかについては、通販サイトで制限しているようではないし、むしろサイト側はレビュー数の多さが商品の人気バロメーターとして捉えているから、こんなレベルのコメントでも一向に構わないのだろう。

人は他人の目を気にしないと言いながら他人の目を気にする生き物である。これだけ物で溢れた豊かな社会であるから、否応なく人の動きを目で追ってしまう。個性は突出と埋没を繰り返し人の目はその揺れ動く間に目を凝らし、自分と他人とを比較しようとする。それは一回限りのこともあるし、執拗に何度も繰り返す場合もあり、そこから更に反感を覚え、やがて妬みへと変わっていくこともある。

この社会では万人が同じ評価をすることは永遠に来ることはない。今日は最高の評価であっても明日もそうであるとは限らない、対局の評価に堕とされているかも知れない。人の気持ちは変わり易くそこに何の抵抗も後ろめたさもない。人の心の根底にあるのは己の自由と保身と高評価への希求だけしかない。

詭弁を何の疑問も持たずに信じ込み、すかさず吹聴して回り、周囲を混乱させるような生き方であれば、低い評価を受けても仕方がない。常に正しい知識を学び取り、正しく観察出来る眼力を養い、正しい思考を繰り返した後の言動が出来て、初めて一定の評価を得られるようになる。人から付けられた評価に立腹し、他人の評価を貶めようと画策するようでは、下種の極みと烙印を押してくれと言っているようなものだ。